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「夢十夜」夏目漱石

自分は苔の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石を眺めていた。そのうち に、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落 ちて行った。一つと自分は勘定した。  しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。  自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越し て行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思い出し た。

物語百夜 その弐

  1. 「三四郎」 夏目漱石
  2. 「アマ チャ・ズルチャ」深堀骨
  3. 「国枝史 郎ベスト・セレクション」
  4. 「鏡花短編 集」泉鏡花
  5. 「本格小 説」水村美苗
  6. 「永日小 品」夏目漱石
  7. 「野分」夏 目漱石
  8. 「草枕」夏 目漱石
  9. 「文鳥」夏 目漱石
  10. 「キマイラ の新しい城」殊能将之
  11. 「墓が呼ん でいる」橘外男
  12. 「下りの 船」佐藤哲也
  13. 「聖シュテ ファン寺院の鐘の音は」荒巻義雄
  14. 「冠弥左衛門」泉鏡花

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