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「夢十夜」夏目漱石

自分は苔の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石を眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定した。  しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。  自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思い出した。

物語百夜 その弐

第百夜 「道草」夏目漱石
第百一夜 「三四郎」夏目漱石
第百二夜 「アマチャ・ズルチャ」深堀骨
第百三夜 「むずかしい愛」イタロ・カルヴィーノ
第百四夜 「鏡花短編集」泉鏡花
第百五夜 「本格小説」水村美苗
第百六夜 「永日小品」夏目漱石

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