初出■2004年

紹介

「わが死の謎を解ける魔術師を呼べ」フランスの古城を移築後、中世の騎士として振舞い始めた江里。750年前の死の真相を探れ、という彼の奇想天外な依頼で古城を訪れた石動戯作(いするぎぎさく)は、殺人事件に遭遇する。嫌疑をかけられた江里が向かった先は……。ミステリの枠に留まらない知的エンタテインメントの傑作! (講談社文庫)

講談社

【感想】2005.6.23

天使は三段論法ができる
今さら殊能将之のすごい才能に驚いても遅いのですが、この「キマイラの新しい城」はその巧みなプロットと現在性を取り込むセンスの良さには舌を巻かざるをえません。
まるでプログレッシブロックの古き良き時代の頃のイエスのような雰囲気で、その目くるめいた変拍子がもたらす快感には参ってしまいます。
「キマイラの新しい城」は主人公の石動戯作とその助手アントニオの探偵物語の最新作です。
当然ながら事件の舞台は現代日本なのですが、その語り手の大半は中世フランスの騎士の亡霊という、奇態な推理小説となっています。
物語のテーマは「天使は三段論法できる」となります。
なんだかよくわからないと思いますが、これは聖トマス・アクィナスの言葉であり、今回の殺人事件の解答はこの言葉にあるのでした。
これはネタバレとなるのでしょうが、まあ読んでみないと意味するところはわからないと思います。
さて、いつでもヒネリを畳み込まないと気がすまない、この推理作家の新作のひねくりは、殺人事件の依頼主が、被害者であるということですね。
なにそれ?ですが、ようは死後の世界というやつで、750年前のフランスの騎士の亡霊自身が、自分を殺害した犯人を探して欲しい、ということなのです。
とは言っても歴史ミステリでもなく、現代日本のしかも東京の代表的観光地である六本木ヒルズがその舞台のひとつだったりします。
もうばかばかしくて読まずにいられない、のですね。
さらには作者の新境地というか、六本木ヒルズを風車に見立てたドンキホーテの活躍という、まるで香港映画のような楽しい活劇シーンも挿入されていたりと、お薦めの一冊なのであります。
これは参考文献に掲げてあるマイケル・ムアコックの剣と魔法の物語へのオマージュであるせいかも知れません。
そうした中世騎士物語的なファンタジーや中世スコラ神学の魅惑的な雰囲気を織りまぜながら新本格派的な推理を、ぬかるんだ現代日本を舞台にして繰り広げられるのは、殊能将之をおいて他にいないでしょうね。
そしてそのあまりにばかげ大団円には、亡霊も呆れて退散するほどの顛末が待っているなんて、よくできたお話なのです。
これからも続くと思われるこの探偵物語、助手のアントニオが一体何者なのか、超自然的な存在との対決みたいな話になっていくのか、まだまだ楽しませてくれる余地がたっぷりありそうです。


羊男

物語千夜一夜【第百十夜】

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